宇都宮家庭裁判所 昭和48年(家)1351号 審判 1974年8月15日
申立人 姫ゆり(仮名)
主文
本籍栃木県宇都宮市○○町○○番地筆頭者姫信明除籍中戸籍事項欄中転籍事項を消除して同戸籍を回復し本籍千葉県千葉市○○△丁目△番地筆頭者姫信明戸籍中戸籍事項欄の転籍事項を消除して同戸籍を消除することを許可する。
理由
(申立の要旨)
申立人とその夫姫信明(明治三八年一二月一八日生)は昭和二年四月一八日婚姻届出をし、当時は東京都内において世帯をもち、その後数回各地を転居した後、昭和一二年六月ころより栃木県宇都宮市○○町○○番地(その後町名変更により同市○○町○○番地となる)に居住し申立人は長男姫純一郎およびその妻子とともに生活し同所を本籍地としてきたものであるが、信明は昭和初年より教材販売業に従事し申立人とは別居することが多く現在も千葉市○○△丁目△番地に「ひろ子」と称する女性(年齢三三歳位)と同棲し申立人方には絶えて久しく来訪せず、また申立人の生活費を支給することもない。
それのみでなく申立人に無断で申立人と離婚し前記の「ひろ子」と称する女性と結婚しようとする意図であることが伺われる。
しかし申立人としては既に永年上記のような夫信明の非道な仕打を耐え忍んで来たのであるから今更離婚する意思は毛頭有しない。ところが最近に至つて判明したところによると、申立人らの本籍は昭和四七年一一月一日付で申立人に無断で千葉市○○△丁目△番地に転籍せられており、その際作成せられた信明・ゆり名義の転籍届書中の申立人の署名押印は申立人のものでなく、信明が申立人の意思を無視し申立人の署名や押印を求めることなく勝手に記名押印したものであつて申立人としては転籍する意思がないのみならず転籍届をすることすら知らされることなくなされたものであつて本件転籍届書の作成などについて全然関知しないものであり、上記転籍届出は戸籍法第一〇八条第一項に違反し無効の届出であるから主文どおりの戸籍訂正を申立てるものである。
(判断)
本件申立書、昭和四七年一一月一日付千葉市長宛転籍届書写、同四八年一一月八日付千葉市長作成の申立人の戸籍謄本、姫信明の除籍謄本、申立人の住民票写、家庭裁判所調査官小林崇司の調査報告書の各記載ならびに申立人本人・参考人姫純一郎の各陳述を総合すると上記申立の要旨に記載せられている点はいずれも全部これを肯認することができる。
以上の事実によれば本件転籍届(昭和四七年一一月一月付にてなされた届出人姫信明・同ゆり名義)は戸籍法第一〇八条第一項所定の方式を履践した適法のものということはできない。
よつて本件申立は正当であるからこれを認容すべきものと思料する。
それ故戸籍法第一一四条によつて主文のとおり審判する。
(家事審判官 藤本孝夫)